2022/7/15 静岡地裁 第11回旧優生保護法裁判

14:30裁判
 7月15日(金)、第11回旧優生保護法裁判が行われた。原告は、ろう高齢女性の宮川辰子さん(仮名)。
 同裁判は、2020年4月から、新型コロナウイルス感染拡大のため、裁判の傍聴が出来ず、裁判所、弁護団、被告国側の3者による進行協議が続いていた。裁判が再開しても席数に限りがあったが、今回から通常の50名以上が傍聴できることとなり、また静聴協の事務局長と次長の尋問もあり、多くの人たちが傍聴券を求めて並んだ。
 今回の裁判では、公益社団法人静岡県聴覚障害者協会(以下、静聴協)の小倉健太郎事務局長と前田智子次長が弁護側の証人として出廷。旧優生保護法の裁判において、ろう者や協会関係者が尋問を受けたのは、全国で初めてのことである。事前に協会関係者に周知されたこともあり、注目されることとなった。

【小倉尋問】
 まず、佐野雅則弁護士が小倉事務局長の尋問を担当した。小倉は、真実を述べることを手話で表した。佐野弁護士は静岡県聴覚障害者協会が旧優生保護法問題に取り組んだいきさつやその証拠書類について質問した。小倉証人は弁護士が指し示す書類に目を通し「上部団体である全日本ろうあ連盟から2018年3月に被害実態調査の依頼を受け、5月に静聴協として文書を改めて作成し、地域ろうあ協会に調査協力をお願いした書類に間違いない」旨証言した。続いて聴覚障害とはどのような障害かという質問に対し、「聞こえないことは、外見からはわからない。これが一番大きな特徴。そのため支援は不要と見られたり、後回しにされることが多い。ろう者とは、生まれた時から、または日本語獲得前から聞こえない人たち。耳が聞こえないために、目で見て生活する。分厚いガラスの瓶に入って生活しているようなものと考えればイメージしやすい。音は入らず、ガラス越しに人の顔や行動を見て、今何が起きているのか、話の内容などを想像する世界」と説明。さらに「その場に合った適切な対応や行動ができず、誤解を受けやすい」、「手話は手だけでなく、目や眉、頬、口、腕など上半身で表現するろう者の言語」と語った。
 続いて、佐野弁護士からろう教育について質問があり、「ろうの子どもに対する教育をろう教育という。多くの人々は知らないことだが、日本では長い間、ろう者は手話を禁じられてきた。発音と唇を読んで話の内容を理解する読唇を覚えさせる『聴覚口話法』により、ろう児は残存聴力を使って聞き、またはまったく聞こえなくても相手の口元を見ることを強いられてきた。つまり聞こえる人に合わせる教育。手話を使っただけで笑われた。手話で学びたくても学べなかった。手話を禁じられた上に、口話(日本語を音声で話すこと)を身に付けられないまま卒業した子どももたくさんいる」と、ろうの子が言語を奪われ苦しんできたろう教育の歴史を証言した。佐野弁護士が宮川さんの障害特性や被害について尋ねると、小倉証人は「日本語の力は、名前を書いたり、住所を書いたりするくらいはできるが、宮川さんは文章を読んで理解することが難しい。日本語ではうまく自分のことを説明できない。理由はさきほどのろう教育の歴史で話した通り」とした。
 続いて、小倉証人は本人に成り代わって宮川さん自身の被害について「わたし、宮川の結婚が決まったのは30歳のとき。母に身振りで身支度するよう言われ、バッグに服を詰めた。翌日、両親と私の3人は電車に乗り、連れて行かれたところは病院。何も分からないまま注射を打たれ、目覚めたらお腹がとても痛かった。両親と医者は何やら話しているが、聞こえないのでわからない。10日後退院し、母が用意した花嫁衣裳を着たとき、帯がお腹の傷に当たってとても痛かったが、我慢した。子どもがなかなかできず、どうしてだろうと思っていた。親戚の赤ちゃんを抱くと、自分も生み育てたいと思った。今、夫は亡くなり、私は一人。手術の責任は国会にあると初めて知った」と述べた。その間、裁判官や被告国側席の複数名は小倉証人が手話で語る姿をじっと見つめていた。弁護士から「最後にこの裁判で小倉さんから伝えたいことは」と問われると「さきほどもお話ししたように、ろう者は手話を禁じられた時代が長く、母語を獲得できなかった。そのような状況の中で、例えば、『基本的人権』『法律』といった言葉が出てきても、ろう者にはわからない。裁判に訴えることも無理だった。二点目は、私がこの裁判に関わっている中で驚いたことが1つある。ろう学校や教育委員会と、この旧優生保護法裁判の関わりについてです。昔の聾学校の校長が、教え子が大きくなって結婚したいと申し出てきたとき、仲人を引き受ける条件に不妊手術を挙げていたことが分かった。ろう者はとても驚き、泣きながら毎日相談し、やむなくその条件をのんだ人たちがいた。一組、二組だけではない。たくさんいた。この話を、ろうの高齢者の方々から聞いた。結婚にあたり、人生で一番幸せであっただろう瞬間から、人生のどん底に突き落とされ悲しんだ二人が想像できる。三点目は優生思想について。社会を見ると『障害者は死んでもいい』『障害者はいらない』という考え方を目にするときがある。元はと言えば、旧優生保護法が優生思想を根付かせてしまった。この法律がずっと残っていたために、誤った考え方が広まってしまった。宮川さんは高齢。宮川さんだけでなく、その背後にも多くの被害者がいる。裁判長は、宮川さんの訴えをきちんと受け止めて、宮川さんを救っていただきたい」と強く訴えた。

【前田尋問】
 担当の諏訪部弁護士から「宮川さんと初めて会ったのはいつか」と尋ねられ、前田証人は「宮川さんと会ったのは2018年8月8日が最初。『あなたはこのことを裁判という方法で訴え、国に補償と謝罪を求める裁判を起こすことができる』と情報提供を行なった。宮川さんは、にわかには私の話の内容を掴めなかったようで身を乗り出し、目を丸くして私の手話を見ていた。宮川さんはその時点ですぐに、裁判や手術が強制的に行われていたことを理解したわけではなかったと思うが、多数回会っているうちに、裁判や国会、強制不妊手術についてしだいに理解してくれるようになったと思う」と答えた。
 「9月10日に議事録が作成されているが面談日から1ヵ月間空いている理由は何か」との問いには、「宮川さんと話している間、ずっと手話を使うので宮川さんの手話を見ながら簡単にメモ。事務所に帰り、何度も修正を繰り返した。報告書をまとめて事務局内で供覧し最終的に保存したのが9月10日」と述べた。最後に、「何か他に言いたいことはあるか」と尋ねられ、「私は優生保護法という法律が障害者の生殖機能を奪ったと知り、立法に対する信頼など吹き飛んだ。1953年、厚生省は、障害者に対して強制不妊手術のためには欺罔(ぎもう)、つまりだましても良い、麻酔を使っても暴力を振るっても構わないとの通達を出した。国が過去の誤りを省み、これからもこの国で私たちが平和で安心して暮らせるように、せめて高齢の被害者に謝罪と補償をしてくれることを切に望む」と結んだ。

 弁護団の宇佐美達也弁護士は、「前田証人が初めて宮川さんに出会ったのが8月8日とのことだが、どのように記録したのか」と補充質問を行なった。それに対し「宮川さんと会った後、記憶をたどりながらスマートフォンに音声入力をした。それを文字に起こして、日本語に翻訳しなければならない。そのことに時間を要した」と答えた。その後、被告国側から、「一緒に友人が同席していたか」と質問があり、前田証人は「はい、いました」と答えた。

16:00報告会
 報告会で佐野弁護士は次の通り説明した。「小倉さんの尋問の目的は、東京高裁で勝った内容を静岡でも適用させること。障害者は自身の権利を行使できたのか、これまで社会の中で苦労してきた聴覚障害者とはどんな人達で、どのような生活環境なのか、小倉さんに説明してもらった。その上で、宮川さんの被害についてご本人の代わりに話してもらった。旧優生保護法の実態調査を行なううちにショッキングな出来事を知ったことも説明し、裁判官に原告の救済をお願いした」
 次に、諏訪部弁護士は「前田さんへの尋問は、大阪高裁判決を意識した。この判決では、権利侵害があって、それについて損害賠償請求権があると知った時から6か月以内に裁判に訴える請求権があるとしている。宮川さんは2019年1月に訴えた。前田証人が宮川さんに面会して、国会議員が作った法律によって手術を受けさせられたことを初めて伝えたのは2018年8月8日。そのことを証言いただいた」と語った。宇佐美弁護士は「補充質問の意図は、宮川さんが提訴できることを知ったのは8月8日。そのことが記載された9月10日の議事録は信用できるものかを確認した。前田さんは走り書きをし、それをスマートフォンに音声入力。議事録が新鮮な情報と証明するために質問した」と説明を加えた。
 被告の反対尋問の意図について、諏訪部弁護士は「前田証人と宮川さんが会っている時に、(陳述書に記載してあった)宮川さんの友人が同席。その友人が前田証人より以前に裁判の話をした可能性があると言いたかったのではないか」と説明。
 小倉事務局長は「自分には被告国側の反対尋問がなかったがなぜ?」と尋ねると、佐野弁護士は「小倉さんの証言は、一般的なことや歴史。国にとって有利な証言を引き出せないからではないか」と述べ、また、「この裁判も次は結審を迎える。結審の後判決となる」と解説した。
 参加者から「小倉、前田ブラボー!!」とのエールが送られ、会議室は大きな拍手に沸いた。参加者から「裁判所で最後に国と弁護団の話し合いが聞こえなかったが何を話していたのか?」との質問があった。佐野弁護士は「我々が前回までに出している書面に対して、国が8月中に反対書面を出すかどうかを確認していた。国は、大阪、東京の高裁判決を踏まえて主張してくる。弁護団としては9月末までに最終的主張を提出。つまり9月末にはすべてのものが出し尽くされることになる」と答えた。次に「もし、10月の裁判で国が主張するとしたら何を?」との問いには、「大阪と東京の高裁判決後、国は最高裁に上告した。除斥期間の適用を主張してくるだろう」と見解を述べた。