2021/10/15 静岡地裁 第7回旧優生保護法裁判

14:30裁判
 10月15日(金)、第7回旧優生保護法裁判が行われた。2019年4月26日に開始したこの裁判は、2020年1月17日の第4回からしばらくの間、公開の法廷では行われず、裁判所と原告と被告国側のみの進行協議が続いた。第5回が2020年12月25日、第6回は2021年3月12日に開かれたが、その後、新型コロナウイルスが日本中で感染拡大、続く緊急事態宣言の影響で、7月30日の期日はまたも進行協議となり、今回の裁判に至った。今回は傍聴希望者が多かったため抽選の結果27名が傍聴し、漏れた者は隣接する弁護士会館にて待機した。佐野雅則弁護士は、原告準備書面13及び14で以下の意見を述べた。(抜粋)
1 準備書面13は、原告が主張してきていた国会議員の立法不作為による不法行為を敷衍(ふえん・分かりやすく意義をのべること)するとともに、法務大臣、文部大臣・文部科学大臣、及び厚生大臣・厚生労働大臣が差別偏見除去義務に基づく種々の措置を講じなかったことについて、不作為に基づく不法行為が成立することを論じている。
 また、準備書面14は、それらの責任について、被告側の準備書面においてなされた反論に対する再反論をするものである。
2 国会議員の不作為責任
  国会議員は、全会一致で違憲な旧優生保護法を制定した経緯から、①国会としての謝罪、②優生思想の克服、障害者に対する差別偏見を解消するための国と国民の責務の明示、③被害回復のための特別措置という3つの立法措置をとる義務があったが、これを怠った不作為責任を負う。
3 法務大臣の不作為責任
  法務省の前身となる法務府の長は、1949(昭和24)年10月11日、厚生省公衆衛生局長からの質問に対し、優生手術が「決して憲法の精神に背くものであるということはできない」として、強制不妊手術が憲法に適合している旨回答している。また、手術に際して、強制力の行使等が許容される場合がある旨も回答している。法務大臣が、被害者に対して過去の行為を心より謝罪することが必要不可欠であるとともに、それらの偏見差別が決して正当化されない違法なものであったことを国民に広く周知し、人権啓発政策を実施するべきであった。法務大臣には不作為義務違反の責任がある。
4 文部大臣・文部科学大臣の不作為責任
 文部省は、遅くとも1972(昭和47年)まで、教科書検定において、優生保護法を支持・推進する内容の記載がある高等学校用の保健体育の教科書を合格とし、20年以上の長きにわたりこの教科書に基づいて保健体育の授業が実施された。
文部大臣・文部科学大臣としては、優生保護法等に関する教育を担当する教員に対し、誤った教育を行わないように適切な指示をするとともに、学校教育において、すべての児童生徒に対し、その成長過程と理解度に応じた正しい教育を実施し、人権啓発教育を実施するべきであった。
  しかしながら、文部大臣・文部科学大臣はそのような措置を何ら行っていないため、この点について作為義務違反の責任がある。
5 厚生大臣・厚生労働大臣の不作為責任
  厚生大臣は、以下に述べる4つの行為をしている。
  ア 旧優生保護法の立法の促進、イ 強制不妊手術の実施の推進、ウ 身体の完全性・子を産み育てる権利の直截的な侵害、エ 障害者等に対する偏見・差別の助長
 厚生大臣は、強制不妊手術の実施及びその徹底の周知等の施策により、優生思想を国民に蔓延させ、障害者等に対する偏見・差別を助長させることとなった。これらの行為により、強制不妊手術の対象とされることとなった対象者の数は膨大であり、実際に手術を実施された者だけでも5万人を超えると推計され、被害者各人の被害も極めて深刻である。単に旧優生保護法中の優生条項を廃止するというだけでは足りず、厚生大臣が自らもたらした甚大な被害を積極的に回復するための措置を講じなければ、著しく正義に反する。
 具体的には、以下の3つの措置を講じる義務があった。
  ①偏見・差別除去義務  ②被害状況調査義務  ③補償立法策定義務
 しかしながら優生政策や旧優生保護法が誤りであったことを国民に対して表明したことはないし、障害者等に対して謝罪もしていない。被害状況が調査されたこともなく、さらに、議員立法で成立した一時金支給法も被害者の被った被害を回復するにはほど遠い内容となっている。したがって、「厚生大臣・厚生労働大臣にも作為義務違反の責任がある。」とした。

15:00報告会
 その後、隣接する弁護士会館で行われた報告会では、大橋昭夫弁護団長が冒頭のあいさつで「3月から間が空き、こちらも被告の国も準備書面のやり取りしかできなかったが、裁判所に言うべきことは言ってきた。今回の裁判は流れが悪いが、『やっても同じ』『やらなければ良かった』ではない。社会にとって意義があることを再認識させた。旧優生保護法はあってはならない法律。それが何十年もまかり通ってきた。我々が大きな声を出さないと差別はなくならない。」と述べた。
次に佐野雅則弁護士は「1名の裁判官が変わり、弁論の引継ぎを行った。この間に提出した書面の確認を行った。我々は裁判所に『国がどんな責任を負っているか、原告がどんな被害を受けたのかについて、どんな証人を呼んで立証をどうするか、検討中』」と伝えた。次の書面は1月7日までに提出。裁判は1月14日と3月11日に開催予定。」と語った。
 柳川侑馬弁護士はパワーポイントを使用し、準備書面13で主張した『不作為による違法行為』について解説。「旧優生保護法は誰の責任か?国会議員、法務大臣、文部大臣、厚生大臣が被害を回復してこなかった。これまでは、国にどんな責任があるか?旧優生保護法と強制不妊手術は国の『作為による違法行為』としてきた。今回は、国が謝罪しなかったことや適切な補償をしなかったこと、国がやるべきなのにやらなかった『不作為による違法行為』の責任を追求。『国が負うべき作為義務』について「国は、自らの違法行為によって生じさせた被害を回復する義務を負っていた。そうでなければ著しく正義に反する。」とした。最後にまとめとして、以下の3点を挙げた。
① 本件では国による重大な違法行為により深刻な被害が生じた
【国は自らが生じさせた被害を回復する措置(原因究明・謝罪・補償)を講ずる義務を負う】
② しかし、国は①の措置を講じていない
【国には①の作為義務の違反がある】
③ 国は、少し考えれば①の措置を講じなければならないことに気付くことができた
【国には少なくとも過失がある】
「よって、国は①の義務を怠ったことについて責任を負う」と結んだ。
 国は反論の中で「宮川さんが手術を受けた時には、国家賠償法があったのだから、国を訴えることはできたが、手術から20年が過ぎ、除斥期間が過ぎているので請求権は消滅していた。手術と差別は別のものである。(手術によって差別を受けたとしても、手術と差別は無関係)
 国の反論に対して、弁護団はその都度再反論を行っている。
 会場の新聞記者の「いまのところ立証(原告の尋問)を考えていないということだが、結審の目途はいつごろか?」との質問に、佐野弁護士は「年度内の結審は無理。来年度に入って、3ヶ月程度先が判決か。来年に入れば、立証について考えられるかもしれない」と回答した。
 先般、神戸地裁判決は、旧優生保護法を1996年まで改正しなかったことにつき立法不作為責任を認めたものの、除斥期間により原告の請求を棄却し、法廷での理由の言い渡しも行わなかった。参加者からは神戸地裁は判決主文のみ言い渡して、理由を述べずに裁判官があっという間に法廷から去ったことについて質問が寄せられた。これに対して宇佐美達也弁護士は「裁判官が怒りに包まれた法廷で、敗訴について長時間朗読するのは耐え難かったのではないか」と述べた。
 最後に大橋団長は「裁判所の自信のない判決。たとえ負けても、負けたほうが理解するような判決にすべき。裁判官は、自分が裁くべき判決内容を、易しく訴えるのが義務。傍聴の皆さんを正視できなかったからといって『不服があれば、控訴すれば良い』とは残念」と述べて、報告会は終了した。